渡邉心乃美|山形市印鑰神明宮所蔵蕨手刀の型式学的検討
宮城県出身
青野友哉ゼミ
山形市指定有形文化財に登録されている蕨手刀は鈴川町に鎮座する印鑰神明宮にて所有、保管されている刀であるが、これまで詳細な調査研究はされておらず、研究者ごとに計測結果に差異がみられる状況にある。本論では黒済和彦(2018)の型式分類を用いて分析を行うと同時に、X線写真撮影と実測図(図1)の作成を行った。
蕨手刀の先行研究では型式学は戦前、柄と刃の長さの割合から新旧を求める方法が用いられていたが、戦後には各地で復興による開発が進み資料数が大幅に増加し、石井昌国や八木光則、黒済などにより法量だけでなく刀にみられる特徴も加味した型式分類が行われている。出自は関東?中部地方を起源とする説が多く、分布は関東?中部地方から西国に拡散、東北?北海道へと北上する傾向がみられており、出土数が最も多い東北地方の分布は岩手県を中心とする太平洋側の地域に、そして本論の対象地域である山形県では置賜、村山地域などの南東地域に集中することが明らかとなっている(図2)。
研究対象である印鑰神明宮所蔵蕨手刀は明治23年10月に出土、昭和40年に市指定有形文化財に登録されており、出土遺構に関しては明治23年に山形市で起こった洪水被害にあった土地を開墾していた際に出土したため不明とされている。刀の法量は全長34cm、柄長11cm、刃長23cm、元幅4.2cm、柄反り2.5cm、柄絞り4cmで、状態は全体が錆に覆われている。実物観察とX線写真撮影の結果、計測結果が二分していた区は両区に、柄部に目立った欠損は見られないが刃部は鋒先と下部の大部分が欠損していることが明らかになった(図3)。 刃部の欠損具合から、本来の刃部は柄元から鋒先付近まで一定の幅を維持した形状になると推測している。印鑰神明宮所蔵蕨手刀の型式だが、例外の少ない要素に限定し柄反り2cm、絞り4cm以上、元幅5cm以下の型式に絞り込むと9世紀前~中葉頃の黒済分類Ⅲ新類が該当する結果となるが、今回は比較対象が蕨手刀のみであったため、今後は蕨手刀以外の古刀とも比較検証し年代の再検討を行う必要がある。また、本論の調査中に実物観察とX線写真から柄元に長方形状の盛り上がり部分を確認できたが、現時点で調査の継続は困難であると判断したため、追求については今後の課題としたい。