東北芸術工科大学の大学名は、単に東北地方に立地する芸術?デザイン系の大学であることを意味するだけではありません。本学は、「東北芸術工科大学設立の宣言」に掲げる高い理想と大きな志を持って、この困難を極める時代に誕生しました。
日本文化の源流ともいえる東北の地にしっかりと軸足を置き、芸術とデザインの力で、現代社会の抱える様々な課題を解決できる人材の育成を、その使命としてとらえています。
戦争やテロによる殺戮、世界中に存在する貧困と飢餓、地球規模の環境破壊、子どもを取り巻く教育問題???。経済効率のみを優先し、あるいは科学技術を盲信し、物質的な発展と人間性の喪失を繰り返してきた20世紀文明への深い反省に立って、人々が安心して暮らせる平和で豊かな社会を作るために大学が果たすべき役割は何なのかを、常に考えながら実験を重ね行動する「運動体」─ それが、東北芸術工科大学です。
本学が設立された東北の地には、縄文時代から1万年を超える長きにわたり、日本古来の精神?文化が脈々と受け継がれています。そこには渡来文化の影響を受け、生産性の合理化?効率化に支えられた弥生以前の、純然たる日本人としてのルーツ?源流を見ることができます。
東北に今も色濃く残るこの豊かな歴史観と自然環境は、病んだ現代社会が負った矛盾や問題を解く手がかりとなるはずです。それは言い換えれば、経済原理に基づいた西洋的な思想から、精神世界を重んじる日本古来の東洋的な思想への転換であり、ここから芸術?デザインが果すべき役割を、社会に、世界に問い続けていこうとするものです。
本学が掲げる「東北ルネサンス」というスローガンは、地域社会と共生しながら、地域の歴史や文化に育まれた精神と叡知を理解し、新しい世界観の創生へと結集させて次世代に手渡す、その決意でもあります。国際化が進み共生が叫ばれる現代においてこそ、見直されるべき日本人のアイデンティティーを探る手がかりが、地域性の中に秘められていると考えています。
これら本学の理念や思想は、「人類の良心による芸術と工学の運用によって、社会に貢献する人材を輩出する」という教育目的に引き継がれ、芸術とデザイン工学の二学部の教育プログラムや研究活動へと展開されています。
本学の建学理念は、『東北芸術工科大学生い立ちの記』『東北芸術工科大学の誓い』『藝術立国』の三冊の小冊子で明確に語られています。「なぜ東北の地?山形に東北芸術工科大学が設立されたのか」、そして「この大学が、今の時代に何を成さなければならないのか」。新たな世紀の初頭に生き、これから大学へ進学しようとする若者たちにとって、この三冊は「今、自分がやるべきこと」を真剣に考え、「この大学で学ぶことの意味」を知るための手がかりとなるはずです。ぜひご一読ください。